日本での離婚手続きの流れ
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夫婦二人が離婚に同意したら、離婚届に署名して、市区町村に提出すると、離婚が成立します(民法764条、739条)。離婚届で決めるのは親権者だけです(戸籍法76条1号)。
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話し合いで離婚が決まらない場合は、家庭裁判所に調停を申立てます(家事事件手続法244条、257条)。調停は調停委員を交えた話し合いをするものです。
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調停が成立しなかった場合は、家庭裁判所に裁判を申立てます(人事訴訟法2条、4条)。事情によっては、審判となる場合もあります。裁判中に和解により離婚が成立することもあります。
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裁判の判決が不服の場合は、高等裁判所、最高裁判所へと不服の申立(控訴、上告等)をすることができます。
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調停、裁判(審判・和解)で離婚が成立したら、離婚届に記入し、裁判所が発行する謄本とともに市区町村に提出してください。これにより離婚の届出が完了します。
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外国籍の配偶者は、離婚が成立したら、市区町村で「離婚届受理証明書」を発行してもらい(戸籍法48条)、自分の国での離婚手続きを進めます。
※公正証書
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養育費、子どもの面会、慰謝料、財産分与、年金分割などについて決めたことは、きちんと書類を作成しましょう。弁護士等に依頼するか、公的書類として「公正証書」を作成することで、約束内容の実現をより確実にします。口約束や簡単な書類だけでは有効ではないことがありますので注意しましょう。
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「公正証書」は公証役場で作成してもらうものです。公証役場は各地にあります。
離婚の時に決めておくこと
1.親権者(未成年の子どもがいる場合)
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親権とは
親権とは、子どもを監護養育したり(身の回りの世話)、子どものために契約を結んだり、財産を管理する権利であり、義務でもあります。他人の介入を防ぐ上では権利ですが、子どもの利益のために権利を行使する義務を負います。婚姻中は父母が共同で親権を行使しますが、離婚をすると、父母のどちらか一方が親権者となります。日本は単独親権で、離婚後の共同親権はありません(民法819条)。一度親権者を決めると、親権者の変更は、基本的にはとても難しいので注意してください。
※監護権
親権を持たない方の親が子どもを養育する権利を監護権といいます。親権と監護権を分けることがありますが、一般的には分けずに親権者が子どもを養育することが多いです。「家」を継承することが必要だった時代には意味のある制度でしたが、現在は特段の理由がない限り、分ける協議をする必要なないでしょう。
※外国法における「親権」と「監護権」
日本の「親権」と「監護権」は、必ずしも外国法の同種の言葉と同じ法的意味があるわけではありません。翻訳・通訳の際は注意してください。
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離婚届(協議離婚)で親権者を決めることができる
親権者は、夫婦二人が合意していれば、裁判所を通さない離婚手続き(協議離婚)で決定することができます(民法763条)。離婚届の親権者欄に記名することで決定します。未成年の子どもがいる場合、離婚届の親権者欄を空欄にして提出しても、離婚届は受理されません。つまり、親権者を決めなければ協議離婚はできません。
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親権者が決まる要因
裁判所での離婚手続きを通して親権者を決める場合(調停離婚、審判離婚、裁判離婚)、有利なのは、実際に養育している親です。父母の経済力や国籍は関係ありません(「外国人の親は親権者になれない」というのは間違った情報です)。ですから、離婚の前に別居する場合は、注意しなければなりません。もし一方の親が自宅を離れ、子どもがもう一方の親のもとで生活している場合、圧倒的に同居親が親権者として有利になります。
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親権と外国籍親の在留資格
外国籍親の在留資格が「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」の場合で、日本国籍の子どもの親権を得た場合は、「定住者」という在留資格に変更し、そのまま子どもと日本に住み続けることができます。しかし、親権者とならなかった場合は、在留資格を失い、帰国しなければならなくなる可能性があります。詳しくは「離婚と在留資格」の項を参照してください。
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親権の外国法適用
日本で決定した親権は、外国籍親の国でも適用されます。
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子どもの外国への渡航
日本はハーグ条約に加盟しています。外国籍親の国もハーグ条約に加盟している場合、親権者の同意なく子どもを外国へ連れて行くことは禁じられていますので注意してください。ハーグ条約の加盟の有無に関わらず、子どもや離れて暮らすほうの親の気持ち、子どもにとっての親子関係に配慮する必要があります。
2.養育費(未成年の子どもがいる場合)
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養育費とは
養育費とは、子どもの監護教育に必要な費用のことです。親である以上、離婚しても、親権者にならなくても、負担する責任があります。親権者でない方の親は、子どもの養育費を支払う義務があります(民法877条1項)。
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養育費の金額
養育費の金額については、父母の収入によって計算する「養育費算定表」という基準額があります。1つの目安なので、個別の事情に応じて、金額を変えることができます。
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養育費の支払い義務
養育費の支払い義務は、基本的に成人するまでですが、養育費の金額、期間、支払方法などは、父母が自由に決めることができます。親権をもつ外国籍親が子どもと母国に帰国したとしても、相手の支払い義務は変わりません。
・養育費が支払われないとき
養育費の不払いがあった場合には、裁判所に強制執行を申し立てます。不履行のあった時以降、これからの月々の養育費まで請求することはできますが、裁判所での手続が必要なので、弁護士などに頼む必要があります。費用と時間がかかるので、手続をとらない人もいます。その結果、過去または現在、養育費を支払ってもらっている人は、約30%と言われています。それでも、きちんと決めることが大切です。親としての自覚を促すことでもあり、子どもも別れた親が養育費を支払っていることは、自分のことを忘れていないという安心感につながることがあるからです。
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養育費の変更
養育費は、離婚時に決めた条件を続けなければならないわけではなく、状況が変われば、条件を変えることができます。父母双方の経済状況の変化、子どもの年齢(15歳以上になると基準額が上がります)や状況の変化、養育費の支払い義務者に新たに子どもができたときなどが、条件を変えることができる理由です。その場合は、父母双方で話し合うか、裁判所を通して養育費の変更の申立てをしてください。
3.子どもの面会交流(未成年の子どもがいる場合)
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面会交流の意義
子どもが、離れたもう一方の親と会い、交流することは、子どもの健全な成長のために不可欠です(民法766条)。離れてしまった親から、変わらずに愛情を受けられ続けることで、子どもの心は安定します。離婚後も親であることには変わりがありません。親としての義務を果たす双方の努力が求められます。
・面会交流が困難な事情がある場合
DVや児童虐待、子どもの連れ去りのおそれなどがある場合には、家庭裁判所の調停などでは、子どもの福祉のために、面会交流が制限されることがあります。面会交流を継続して実施することが心身の負担になる場合は、専門の弁護士や相談機関にご相談下さい。
・面会交流の取り決め方
面会交流は、父母と子どもの状況によって自由に決めることができます。日本では、月に1回程度と決めることが多いようですが、会う頻度、方法などは父母両方と、また、子どもの気持ちも尊重して決めます。
面会交流も、養育費と同様、状況に応じて変更が可能です。
面会交流を支援する団体もあります。
4.財産分与(民法768条)
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財産分与とは
離婚に際し、相手方に対して財産の分与を請求することができます。婚姻中に夫婦の協力によって築いた財産を清算すること、離婚後、自立できない方を他方が余力の範囲内で扶養(生活費の援助)をすることを内容とします。
対象となる「財産」には、預貯金、不動産、株、車、貴金属などがあります。結婚してから築いた財産は、名義に関係なく対象となり、基本的には50%ずつに分けます。結婚前の各自の財産や、親から譲り受けたもの(相続財産)は含まれません。
・財産分与の請求
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財産を分けるには、まず、夫婦にどのような財産があるかを把握しておかなければなりません。外国に所有の財産も同様に対象となります。
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経済的に自立できていない場合には、離婚後の扶養として財産分与を請求する権利があります。裁判実務では、認められにくいですが、主張することが重要です。
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財産分与請求の時効
財産分与を請求することができるのは、離婚から2年以内です。
5.慰謝料(民法709条)
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慰謝料とは
離婚に至った主な原因を作った方に対して、慰謝料を請求することができます。離婚に至らせた責任があることから、不法行為とされるのです。日本で慰謝料が請求できる主な理由は、相手の浮気、借金、暴力が挙げられます。
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慰謝料の請求
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裁判所で離婚を進めるなかで慰謝料を請求するときは、その証拠を提示しなければなりません。
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具体的にどのような離婚理由で慰謝料が請求できるか、どのような証拠が必要か、いくら請求が可能かということなどは、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
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ただし、責任があることを証明するために、相互非難を招いたり、人格攻撃をすることもあり、そのために、夫婦財産の清算や、子どもとの面会交流や養育費の分担などの合意形成が困難になることもあります。DVなど相手方の責任が明確な場合を除くと、慰謝料を請求するよりも、財産分与、子どもの養育費の確保など、客観的に判断できるもので、金額の増額を目指した方が、決めた後の任意の履行を促す上でも良い場合があります。
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財産分与と慰謝料を併せて、「解決金」として協議するというやり方も考えられます。
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・慰謝料請求の時効
慰謝料の請求は時効があり、加害者及び損害の事実を知ってから3年です(民法724条)。どの時点で3年とみなされるかは請求理由によりますので注意が必要です。
6.年金分割(厚生年金法78条の13、14等)
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年金受給時(2017年現在は65歳)に、年金額が多いほうの配偶者の年金の一定額を、少ないほうが受け取れる制度を「年金分割」と言います。年金分割には、夫婦のどちらかが、相手の扶養家族であった場合(「第三号保険者」で、月々の年金保険料の支払いを免れていた場合)の3号分割制度(厚生年金法78条の13、14)と、それ以外の場合の合意分割制度(同条の2、3)という2つの制度があります。
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具体的には、年金事務所で調べることができます。また、裁判所での離婚を進めるなかで年金分割を請求する場合は、裁判所から、「年金分割のための情報通知書」を提出するよう求められます。これは年金事務所に「年金分割のための情報提供請求書」を提出することで得ることができます。
日本年金機構「離婚時の年金分割」
http://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/kyotsu/jukyu-yoken/20140421-04.html
年金分割を請求することができるのは、離婚から2年以内です。
7.養子がいる場合
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離婚と養子縁組の解消は別です。離婚する相手の子どもと養子縁組している場合、あるいはその逆の場合で、養子縁組を解消したい場合は、養子離縁届を市区町村に提出しなければなりません(民法811条~813条、739条)。
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養子縁組していた子どもが外国籍の場合は、養子縁組を解消すると、子どもの在留資格に影響する場合があります。在留資格については、詳しくは弁護士、行政書士または相談機関に相談してください。
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